伝説の監督
私は野球を長いこと続けています。
小学校2年生で始めた野球。最初は嫌々やっていました。
普通は父親とキャッチボールをしたり、バッティングセンターに連れて行ってもらったりして、野球が好きになり、そしてチームに入るという流れが多いと思います。
でも、私の場合は、まず少年野球チームに入って、それから時間をかけて徐々に野球のことが好きになっていきました。
だから今思えば最初はサッカーでも水泳でもバレーボールでもよかったのだと思います。
実際に野球と並行して水泳をやっていましたが、水泳にもはまりました。
でも、いつの間にか野球の練習を優先するようになって、水泳の練習には行かなくなりました。
私が野球にはまったのはある監督との出会いです。
小学校のチームに入ったころは、おじいちゃん監督で、口数の少ない方だったので、正直言ってほとんど何も学ぶことができませんでした。
私が5年生になる少し前に、そのおじいちゃん監督が高齢を理由に辞めることになって、後釜として新しい監督がやってきました。
その監督は何年か前の卒業生の父親で6年生選手のお母さんたちとは面識があったそうです。
40代前半の若い監督で、見た目はガテン系の強面ですが、心優しい監督さんでした。
その監督さんの特徴は何といっても独特な野球論でした。
うちの野球チームは地域でも強豪チームで、毎年県大会で優勝争いをしており、全国大会に出たこともあります。
それまでのおじいちゃん監督は、口数は少ないものの、ものすごく細かい性格で、守備を非常に重要視する方でした。
練習内容も守備練習やバント練習など細かい技術の練習がほとんどで、あまり楽しいものではありませんでした。
新しい監督になってからは、守備重視の野球から180度方向転換をして、攻撃重視の野球にシフトしました。
「野球っていうんは、点を取ってなんぼのスポーツやねん。いくら守備が上手くても、相手にとっては何のプレッシャーにもならへん。打って打って打ちまくるのが野球の面白さや。だから思いっきり振らなあかん。全球フルスイングや。1番から9番までフルスイングや」
監督の方針で、「バントは一切しない、するならエンドラン、エンドランでも右狙いとかそんなこと一切考えずに思いっきり振れ」、「多少ボールでも打てると思ったら思いっきり振れ」、「打撃の中で一番効率がいいのがホームランや」と、超攻撃型の野球に変わりました。
そして、練習メニューもほとんどが打撃練習になり、守備は練習の最後に30分くらいノックをするだけ。
監督さんはアイディアマンで、打撃練習にもたくさんのメニューがありました。
バウンドさせた球を打つティーや、超山なりの球を思いっきり打つ練習や、あえてファールを打つ練習など、バラエティに富んだ練習メニューがたくさんありました。
あと、自主練の時間もたっぷりありました。
その理由として、「野球っちゅうスポーツは、最後はピッチャーとバッターの一対一の勝負や。誰も助けてくれへん。だから一人でやる練習っていうんは絶対やらなあかん」という監督の考えがありました。
他にも、「ええか。野球は確かにチームスポーツや。でもな、チームスポーツの本当の意味は、選手個人がレベルアップすることが大事なんや。個人のレベルが上がれば、チームのレベルが上がる。チームのレベルが上がれば勝てる。だから結局個人が大事なんや」、「ピッチャーはとにかく思いっきり投げろ。バッターをビビらせないかん。遊び球なんて一球もいらん」、「野球は喧嘩ではないけど、喧嘩しているつもりで相手に向かっていかないかん」などなど、他の指導者とは違う考えを持った監督さんでした。
そんな監督さんのもとで野球をやった一番の感想は、「楽しかった」ということです。
ためになる話はたくさんしてくれましたが、怒られたことは一回もありませんでした。
私だけでなく、チームで誰も怒られたことがないと思います。
とにかく笑顔。楽しくやる。
それが監督さんのモットーだったと思います。
私は本当にラッキーだったと思います。
今でも怒鳴り散らしたり、手を挙げたりする監督もたくさんいます。
そんな監督がいるチームで野球を楽しめるわけがありません。
ちょっとしたミスで怒鳴られたり、しばかれたりする。
誰が考えてもイヤです。
野球は楽しくやるべきです。
楽しいからこそ上手になろうと思えるわけです。
怒鳴ったりどついたりするのと、厳しいのは違います。
少年野球の指導者の方には、「野球っていうのは楽しいスポーツなんだ」ということを第一に教えてほしいです。
細かい技術なんて高校に行ってからでも身につけることができます。
まずは楽しむこと。
野球って面白い。
それに気づくことができれば少年野球は大成功です!