嬉しいこと

この前とても嬉しいことがありました。

 

宝くじに当たったとか、新車を買ったとかそういうことではありません。

 

宝くじは買います。いつも何となく宝くじ売り場にふらっと立ち寄って、パッと思い浮かんだ番号のくじを買います。理由は特にありません。

 

いやいや。宝くじのことではないんです。

 

僕の大学から歩いて15分か20分くらいのところに小学校があります。なかなか大きな小学校で、おそらく通っている生徒も多いんだと思います。

 

その小学校の生徒たちは毎朝集団登校をしています。近所に住んでいる子どもたちが10人ずつぐらいに固まって登校するあれです。

 

朝はみんな登校時間が同じだから集団登校できますが、帰りの時間は学年によってバラバラですよね。

 

僕はある時5年生の男の子と知り合いになりました。

 

どうやって知り合いになったかというと、ある日本屋に行こうと思って歩いていると、その男の子が道でうずくまっていたんです。

 

かなり辛そうな顔をしていたので、「どうしたの?」って聞いてみました。

 

その男の子は急にお腹が痛くなってうずくまっていたのです。

 

僕はもちろんその男の子のことは知りません。だから勝手に薬をあげることはできません。

 

どうすればいいかなあと考えました。

 

とりあえず「うちはここから近いの?」と聞いてみました。

 

でもその男の子はきっと怖かったんでしょうね。学校の先生や親から「知らない人に関わるな」と言われていたのかもしれません。

 

その男の子は泣きながら「自分で帰る」と言って立ち去りました。

 

僕は男の子が体を丸めて辛そうに歩いていく姿を見つめていました。

 

でもちょっと歩いてまたうずくまってしまったんです。

 

僕は確かに知らない人ですが、もう見捨てておくわけにはいかなくなりました。

 

もう一度近づいて「家までおぶってあげる」と言って、彼を背中に背負い歩き出しました。

 

男の子からしたら怖かったのかもしれません。

 

僕の背中でずっと泣いていました。

 

男の子の家は歩いて10分くらいのところにありました。

 

玄関のチャイムを押すと男の子の母親が出てきました。

 

男の子は母親の顔を見て安心したんでしょう。すぐ泣き止んで、家の中に入っていきました。

 

彼の母親の話によると、その男の子はもともとお腹が弱くて、学校でもよくお腹が痛くなって保健室に行くようです。

 

母親からものすごく丁寧にお礼を言われ、中に入ってコーヒーでも飲みませんかと誘われたけどそれを断って本屋へと歩いていきました。

 

それからしばらく経ってからまたその男の子を見かけました。

 

服は違いましたがすぐ分かりました。

 

でも、やっぱり僕は彼にとって知らない人なので、こちらから声をかけることはしませんでした。

 

でもなんとかに気になりました。気になったのでその男の子のことを見ていました。

 

すると彼が僕に気づきました。

 

そして、僕の方に走ってきて、「この前はありがとう。僕もう泣かないよ」とだけ言ってまた走り去っていきました。

 

僕はそれが本当に嬉しかったです。

 

僕のことを覚えていてくれて、お礼を言いに来てくれた。それが嬉しかったというのもあります。

 

でも、彼は最後に「僕はもう泣かないよ」と言いました。

 

強くなったんですね。

 

その男の子はもうちょっとのことでは泣かなくなると思います。

 

彼が「僕はもう泣かないよ」と言ったときの真剣な眼差しを見れば分かります。

 

僕は彼にとってはこれからもずっと知らない人です。

 

でも、僕は彼のことを知っています。

 

名前は聞かなかったので知りません。

 

でも、その男の子はもうちょっとやそっとでは泣かない強い男の子です。

 

僕はそのことを知っています。