とにかくやってみろ

うちの父親の口癖は、「とにかくやってみろ」でした。

 

うちの父は工場の社長をしています。

 

正直言ってけっこうお金を持っていると思います。

 

まあ、そんなことはどうでもいいのですが、私の父は、ものを大事にする人で、何かが壊れたら、必ず修理して使い続けます。

 

「ものは壊れることもある。でも、人間が作ったものなら、何だって直せる」

 

父はその言葉の通り、何でも直してくれました。

 

でも、私が小学校に上がった頃から、「自分のものは自分で直してみろ」と言うようになりました。

 

うちの母は、「新しいの買ったほうが早いんじゃないの?」と言いましたが、父は断固として新しいものを買うことを許してくれませんでした。

 

ある時、勉強机の椅子がぐらぐらしているのに気づきました。

 

椅子を詳しく見てみると、どうやら椅子の脚のネジが一つなくなっているいることに気づきました。

 

ネジがあるのならば、もう一度ネジを閉めれば椅子のぐらつきは直ります。

 

でも、肝心のネジが見当たらない。

 

どうすればいいんだろう。。。

 

これと同じネジが売ってるのかな?

 

父に聞いてみました。

 

すると、父は、「ネジがない?だったら作ればいいだろ」と言いました。

 

「えっ?でも、ネジはホームセンターで売っているよね?」と聞き返すと、「確かに売っている。でも、ネジは自分でも作ることができるんだ。どうだ、作ってみるか」と言われ、二人でネジを作ることになりました。

 

ちなみに父の工場はネジを作っているわけではありません。

 

でも、ネジを作るための金属の塊と、その金属を削るための機械ならたくさんあります。

 

まず、大きな金属の塊を金属のこぎりで小さく切ります。

 

そして、金属の塊を椅子の穴の大きさに合うように削っていきます。

 

これは結構時間のかかる作業です。集中力と根気が必要です。

 

そして、正確に削れないと椅子の穴の大きさにマッチしません。

 

太すぎても細すぎてもだめです。

 

また、長すぎても短すぎてもだめです。

 

椅子の穴にぴったり合う大きさに削れたら、先がスクリューになるように削れば完成です。

 

この作業は簡単です。なぜ簡単かというと、スクリューを作るための金型があるからです。

 

もし、その金型がなかったら、父は恐らくその金型も自分で作ると言い出すと思います(笑)

 

これでネジが完成しました。椅子の穴にもピッタリ合いました。

 

これで、椅子はもうぐらつきません。

 

知らないうちにネジが外れ、ぐらぐらしていた椅子が元通りの座り心地のいい椅子に生まれ変わりました。

 

次は、妹の椅子がぐらついてしまいました。同じくネジが外れどこかに行ってしまったのが原因です。

 

私は妹と約束しました。「俺が直してやる」、と。

 

そして、父の工場に椅子を持って行って、「これまた直して」と父に頼みました。

 

すると、「お前この前俺がやっていたの見てただろ?自分でやってみろ」と言われました。

 

それを聞いていた若い従業員が、「社長、小学五年生には無理でしょ」と言いました。

 

父は、「お前は黙ってろ。なんで、できないって決めつけるんだ?やってもないのに、小学五年生だからって理由でできないってのはおかしいだろ」と若い従業員を叱りつけました。

 

そういうわけで私は自分でネジを作ることになりました。

 

まず、以前父が私の椅子のネジを作ってくれた時のことを思い出しました。

 

一つひとつの行程を頭の中で振り返ります。

 

すると、かなり鮮明に覚えていることに気づきました。

 

「これならできる!」と確信がもてました。

 

でも、どれだけやっても、椅子の穴にぴったり合うネジができません。

 

金属の塊を切っては削り、切っては削りを繰り返しました。

 

それでも、なかなかピッタリ合うネジができません。

 

いつの間にか外は真っ暗になり、父以外の従業員は皆仕事を終えて帰ってしまいました。

 

「そろそろ父が手伝ってくれる。手伝ってくれないとしても、アドバイスくらいくれるだろう」と心の中で期待していると、父がやってきて、「おい、俺はもう帰るからな。終わったら電気消して気を付けて帰ってこい」と言い残し、父は帰宅してしまいました。

 

父が帰って私以外に誰もいない工場の中で、私は作業を続けました。

 

2時間半作業を続けました。

 

そして、やっとのことでぴったりと合うネジを作ることができました。

 

時計を見ると、もう夜9時を回っていました。

 

できあがったネジを持って帰宅すると、父が笑顔で出迎えてくれました。

 

「見せてみろ」

 

じっーとネジを見つめる父。その眼差しは本気でした。

 

そして、「よっしゃ!ちゃんとできとるやないか!たいしたもんやで!」と誉めてくれました。

 

あれは、最高に嬉しかったのを覚えています。

 

妹もすごく喜んでくれました。

 

それからも私は父にいろんなことを教わり、いろんなものを自分で直してきました。

 

ものの修理だけでなく、父と一緒にいろんな場所に釣りに出かけ、自分なりにいろいろ工夫して、いろんな魚を釣ってきました。

 

自分の頭を使い工夫して何かができるようになることほど嬉しいことはありません。

 

いきなり誰かにしてもらおうと思うのではなく、まずは自分でやってみる。

 

できなかったら、違うやり方を考えたり、ちょっと立ち止まって自分のやってきたことを振り返ってみるなどいろんな方法があります。

 

そして、できるまでやり続けること。

 

これが一番大事です。

 

最初はできないかもしれません。でも、できないことをできるようにするための唯一の方法は、「できるまでやる」。これしかありません。

 

「できないことをできるようにする」

 

これが私にとっての一番の幸せです。