町の書店

僕は運転するのが好きだ。

 

大学の周りは交通が不便なので、車を持っていると何かと便利だ。

 

僕は運よく親戚のおじさんが大学のある町に住んでいて、そのおじさんから車を4年間の約束で借りている。

 

白のホンダで、一応「軽」ではない。

 

友達からよく「乗せて行ってくれ」とお願いされる。

 

おじさんから車を借りた時に、一応自分でも保険に入った。

 

いつかの冬には、車で、しかもずっと下道を通って関東から青森まで行ったことがある。

 

果てしなく時間がかかったが、気の合う友達4人で車中は常ににぎやかで楽しかった。

 

そういう長距離の旅もいいが、地元の人しか通らないような狭い道を走るのも好きだ。

 

大きい道路はいつも通っているのであまり面白味がない。

 

大きい道路は車が多いし、チェーン店ばかりだから、必要なものを買う時くらいにしか行かない。

 

大学の周りの道路は一方通行が多い。一方通行の道にこそ面白い店があるという法則を一年生の頃に見つけた。

 

最初の頃はよく一方通行の道に逆から入って怒られたものだ。警察に見つからなかったのが不幸中の幸い。

 

ある一方通行の道に面白い本屋を見つけた。

 

個人名が書店名になっている、個人経営の本屋だ。

 

大きなおじさんと小さなおばさんの二人でやっている書店で、建物は古い。

 

「趣きがある建物だ」と友達が言っていたが、僕にはよく分からない。

 

都会にはああいう店は少ないのかもしれない。

 

僕の地元にはもっと古い店がたくさんある。

 

その書店は、いつ行っても客がいない。

 

僕以外の客を見たのは数回しかない。

 

大型ショッピングセンターの中にも本屋はあるのだが、本のことを知らない店員さんばっかりなので、行くのをやめた。

 

それに比べて町の本屋のご主人は本のことをよく知っている。

 

暇だから本を読む時間がたくさんあるのだろう。

 

いつ行っても、おじさんはカウンターで本を読んでいる。

 

「読み終わったら貸してあげるよ」といつも言ってくれるが、それが実現したことは今まで一度もない。

 

でも、「この本読みました?」と聞くと、おじさんは絶対「読んだよ」と言い、簡単な書評を付け加える。

 

おじさんの書評を聞いて買うのを決めた本が何冊もある。

 

何回も行っていると、おじさんとも顔馴染みになり、去年の冬はついにおじさんの家に招待された。

 

大晦日の予定を聞かれ、「両親は海外旅行に行っちゃって、帰省しても誰もいないんです。だから今年の冬休みはこっちにいるつもりです。特に予定はないんですが」と答えると、そんな僕を不憫に思ったおじさんが僕を書店ではなく、おじさんの家に招待してくれた。

 

ご馳走をたらふく食べさせてくれて、おじさんと飲み比べをして僕が買った。

 

僕が負けるべきだったかもしれないが、大きいおじさんが思っていたより30倍くらい弱かったし、勝負を挑んできたのはおじさんだったので、真剣に飲んでいるうちに僕が勝ってしまった。

 

それから僕は本を買うのはその書店でと決めている。

 

他の本屋には絶対行かない。

 

(英文の教科書は置いていないので、それだけはアマゾンで買うが)