子どもは大人になろうとおもってもなれない

誰かの歌にもあるように、大人はいつでも子どもになれるけど、子どもはなろうと思っても大人にはなれない。

 

大人が、子ども時代によく遊んだ公園に行けば、つい立ち寄ってしまう。その瞬間、その大人の心は子ども時代にタイムスリップする。

 

大人には、子どもだった時に記憶があるから、何かきっかけさえあれば、いつでも子どもに戻ることができる。

 

子どもはどうはいかない。いくら背伸びしても、目を閉じてみても、大人になることはできない。

 

未だに大人になったことがない。子どもの過去は、やはり子どもだから。

 

僕が子どものころ、いつもはやく大人になりたいと思っていた。

 

最初のきっかけは「シャワー」だったと思う。

 

シャワーヘッドを掛ける金具が浴室の壁に2つあるが、ある日たまたま家に泊まりに来た叔父さんに聞いてみた。

 

「なんで2つあるの?」

 

叔父さんの答えはこうだった。

 

「一つはお前みたいな子ども用、上のやつは叔父さんみたいな大人用」

 

下は子ども用で、上は大人用。

 

叔父さんの答えを聞いた途端、上の金具に対する憧れが生まれた。

 

今はどう頑張っても届かない上の金具。

 

背伸びしても届かない。

 

叔父さんは軽々上の金具にシャワーヘッドを掛けている。

 

心の底から「すごい」と思った。

 

はやく大人になりたいと願った。

 

その日から、お風呂に入る度に、上の金具に挑戦した。

 

できないと分かっていても、何度も何度も挑戦した。

 

それ以外にも、大人への憧れを掻き立てるものはたくさんあった。

 

例えば自転車のサドル。一番上まで上げたくなったが、実際に上げてしまうと足が届かなくなる。

 

トラックの助手席に乗り込む時、大人の助けがないと乗れなかった。

体を抱えてもらわないと乗れなかった。

トラックの助手席に自力で乗ることができれば、大人になれると思っていた。

 

父親がタバコを吸う時、ライターで火をつける。

でも、子どもはライターを使ってはいけないと言われていた。

ライターの使用を許可されているのが大人。子どもはダメ。

 

大人の世界への強烈な憧れ。母親に見抜かれていた。

 

ある日、母親が僕に行った。

 

「大人になりたい気持ちは分かる。でも、子どもは子どものままでいいの。大人になると皆子どもに戻りたいと思うものなの。今は分からないかもしれないけど、子どもの時に子どもらしくしていないと、大人になって子どもの頃のことを思い出したとき、つまらない思い出ばかりになるよ」

 

何となく納得した。

 

子どもは大人になんかならなくていいんだ。

 

だって、どうせいつかは大人になるんだから、ゆっくりゆっくり歩けばいいんだ。